2009年11月10日火曜日

蜜蜂のささやき

《フランスのある田舎では昔、誰かが亡くなったとき、司祭が蜜蜂にそれをささやき、村に野に告げるよう言ったという。レヴィ=ストロース氏の訃報が伝えられ嘆き悲しんでいる世界のなかには、きっと人間だけでなく、蜜蜂たちに知らされた草花や動物たちもいるだろうと私は思う。涙の一粒一粒をとおして、彼が書いてきた言葉が浮かんでくる。この世のもっとも小さきものたち、いちばん弱きものたちのうちに、かけがいのない価値を見出した思想家は、100と1歳の誕生日をまたずして、静かに自然のなかで息をひきとった。(……)》

──港千尋「レヴィ=ストロース氏を悼む」
日本経済新聞、2009年11月6日朝刊